片思いのあなたに再会してしまいました

「それでは!柴田恭平くんの前途を祈って!かんぱーい!!」

新宿の居酒屋ではサークル主催の恭さんの送別会が行われている。
本日の主役である彼は周囲をしっかりと固められていて、中には3つ下のゆりあちゃんなども混じっている。

「あの子、完全に恭さん狙いね。
恭さんとは学年にかぶってないし、なんならそんなにサークル来てなかったよね!?
いつも同窓会だって来ないのに!!
エブリデイの海外駐在員なんて将来有望株すぎるもの。」

沙織は隣でビールを飲みながら悪態をつく。
まあどう考えても露骨なアピールではある。
それに比べて私は端っこの方にただ座っているだけだ。

「詩織も!早く近くに行かないと!」

沙織に急かされはするものの、実際先ほどから何回かアタックするが歯が立たないのだ。
本日の主役を取り巻く壁は強固だ。

「まあ、トイレに行くタイミングとか狙って声かけてみる。
今日が無理だったらちゃんと電話して時間作ってもらえるように頼むよ。」

沙織は悠長なこと言って〜と呆れ半分、心配半分で私を見ている。
口では少し余裕のあるようなことを言っているが、心は内心焦っている。

2週間後に出発が決まっている恭さんはとても多忙だ。
私のためにわざわざ時間を取ってくれるか、
もし取ってくれてもなかなか申し訳ない。

どんなに私が焦っても時間は平等に過ぎていくもので、一次会は締めとなった。
結局恭さんの隣はガッチリとゆりあちゃんが固めており、声をかけることもできなかった。
このまま二次会の流れか、次こそは最初が肝心。
なんとか近くに陣取って、声をかけて、2人きりになれるようにしないと。
私は気合いを入れてワンピースをぎゅっと握った。

一行が動き始め、その流れについていくように歩き始めた。
そのとき誰かに腕を引かれた。

「石田、ちょっとだけいいかな?」

そこにはいつの間にか恭さんが立っていた。
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