片思いのあなたに再会してしまいました

離れ難かった私たちは一晩中一緒にいた。
新宿から近い恭さんの家にお邪魔して、
本当は再会してから今までの間に話せるはずだったことを全部、時間を取り戻すようにたくさん話した。

「俺転職したとき、前も話した通りエブリデイの人と縁があったということも確かに理由の一つではあるんだけどさ。
本当は石田がフタバフーズに入社したって聞いてエブリデイなら一緒に仕事ができるかもしれないなって思ったんだよ。
まさか担当者になるなんて思ってはいなかったけど、繋がりができるようなそんな気がして。
今思えばなかなかに女々しいよ。」

恭さんは恥ずかしそうに笑っていたけれど、私は恭さんの気持ちが嬉しかった。

「あの恭さん。嬉しいです。
やっぱり私恭さんのこと大好きです。」

一度伝えてしまえばどんどん口をついて出てきてしまう。
恭さんはカッと顔を赤くして、恥ずかしそうにお前なぁと言うとぎゅっと抱きついてきた。

「あんまり可愛いこと言うなよ。
我慢できなくなるから。」

耳元でそう言われ、今度は私が真っ赤になる番だった。

「あの、その、別に我慢しなくても、いいです。」

私が小さくそう言うと、恭さんは一瞬ビクッと身体を揺らし

「お前、後悔しても知らないからな。」

そう言って私をより一層強く抱きしめ、そしてゆっくりと唇を重ねた。

唇にかすかな温もりを感じる。
最初のキスは触れるだけの優しいものだったけれど、泣いてしまいそうなくらい幸せだった。
けれどすぐに再び唇を塞がれて、  
次第に深くなるキスに息が苦しくなり、空気を求めて少し口を開けたその隙に舌が侵入した。
まるで全てを奪われてしまうような感覚に襲われ身体の芯が熱くなってくる。
唇が名残惜しそうに離れると、恭さんは私の手を引いて寝室へと連れて行った。

恭さんに愛おしそうに見つめられて、もう息ができないくらい幸せだった。
ぎゅっと隙間がないほどに抱き合って、お互いの熱を素肌で感じ合えば、このまま永遠にずっと一緒にいられるような気がした。

私たちにはもう時間がない。
そのことはちゃんとわかっていた。
だからこそお互いの存在をしっかりと確かめ合って、刻み付けるように抱き合った。

お互いが果てて、意識が遠のく瞬間に私はこの夜を絶対に忘れないと強く思った。
私に触れる優しい手も、私を大事そうに見つめるその瞳も、詩織と呼ぶその優しい声も。
全部絶対に忘れない。

泣きそうなくらい幸せな夜に
しっかりとお互いのぬくもりを感じあいながら私たちは眠りについた。
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