片思いのあなたに再会してしまいました

恭さんの乗る便の搭乗アナウンスが頻繁に聞こえるようになった。

「もうさすがに行かないとな。」

恭さんは掲示板を見て確認すると、ゆっくりと立ち上がった。
私もつられて立ち上がる。

「サークルのみんなにもよろしく伝えておいて。」

「はい、もちろんです。みんな恭さんがいなくて悲しみますね。」

「石田も仕事頑張れよ。まずは俺たちの企画、しっかりと最後までやり遂げて成功させるんだぞ。海外からでもチェックしておくからな。」

「任せてくださいよ。恭さんの手柄、全部取っちゃいますから。」

「頼もしいな。だけど頑張りすぎて倒れたりしないように。身体には気をつけて。」

「恭さんも、慣れない土地で大変だと思います。くれぐれも健康には気をつけてください。」

「それじゃあ………元気で。」

「はい…………
さようなら。」

やっぱり涙は抑えられなかった。
視界はぼやけて、絞り出すような声で別れの言葉を告げた。

元気で、笑って、恭さんが後ろ髪引かれるようなことがないように送り出すつもりだったのに。
恭さんと過ごした幸せだった出来事も、苦しかった出来事も全部全部が蘇ってきて。
胸の痛みも、苦しさも耐えきれないほどだけど
私は懸命に笑顔を作って、最後はにこりと微笑んだ。

恭さんは今までで一番強く私を抱きしめた。
恭さんに触れられるのは最後かもしれない。
このぬくもりを感じるのも最後かもしれない。
私は恭さんの背中にしっかりと手を回して力を込めた。

恭さん、大好きです。

その想いがちゃんと伝わりますように。

「詩織、またな。」

彼は耳元でそう言って、そして出発ゲートをくぐった。

またな、
彼はそう言った。
もしかしたら何気なしに言った言葉かもしれないけれど、これは彼が唯一口にした未来への言葉なのかもしれない。
私、この言葉にすがってもいいのかな?
涙はとどまることを知らないけれど、私の心はちゃんと晴れやかだった。

恭さん、またね。

私は心の中でそう呟いた。
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