片思いのあなたに再会してしまいました
オフィスを出て外の風を感じたとき、やっと肩の力を抜くことができた。
どっと疲れた気がする。
これが今日最後の仕事でよかったと思う。
あとは会社で資料の整理を軽くすれば今日は帰れる。例えこのままの状態で仕事をしても全く集中できなかっただろう。

「石田さん?大丈夫?疲れたでしょ。」

なぜ疲れたか、ということに対して言及してこないのが日野さんの優しさだろう。

「あ、はい、初めてのことで、緊張してしまって……」
「……今日はもうやることも少ないし、ちょっと休憩してから行こうか。」

日野さんは近くにあったカフェチェーンを指差してにこりと笑った。

ティータイムの時間はすでに過ぎているということもあり店内は比較的空いていた。
どんなに精神的にまいっている状態だとしても、食品メーカーの営業であるという職業病で、つい自社商品が使われているか、今後の提案の可能性なんてことを考えてしまう。
メニューを見ながら考え込んでいると、ものの1分もしないうちに注文のアイスカフェオレが出来上がった。
店員さんにお礼を告げてカウンターを離れ、店内を見回すと窓際の席に既に座っていた日野さんが笑顔でひらひらと手を振っている姿が目に入った。

「すみません、ご馳走になってしまって。ありがとうございます。」

「いいのよ、逆に飲み物一杯なんて申し訳ないわ。」

日野さんはアイスココアを美味しそうに飲む。
妊娠中だからカフェインはNGだ。
コーヒーの匂いはもう気にならないくらいに悪阻は落ち着いたと言っていたので良かった。

「それで、どう?うまくやっていけそう?」

明らかに私と柴田さんの間で何かがあること。
そしてそれはおそらく一方的に自分のものであることをきっと鋭い日野さんは気づいている。
だけどそれを何とは聞いてこないところが彼女は大人だと思う。
けれどうまくやっていかなきゃいけないのよ、ということをその真剣な瞳で暗に伝えているような気もする。


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