明日は
 青春はどんな味がするんだろう。
 甘いいちご味? 酸っぱいレモン味? ちょっと大人なぶどう味?
 私の青春は何味……?

 棒付きキャンディーを口の中で転がしながら、ぼんやりと空を眺める。
 爽やかなソーダーの味が口の中に広がる。
 私はこの味が好きだ。嫌なことをスパッと忘れられる迷いのない味。
 笑われるかもしれないが、この味はどこかいつも背中を押してくれる気がする。
「紗笑?」
 宮部奈緒の声が耳に響く。
 学級委員長を務める彼女は、いつも何かと私を気にかける。
 そして、奈緒は幼馴染み。サラサラの綺麗な長い黒髪と太陽光を知らない真っ白な肌、そして大きいクルッとした瞳……。
 陳腐な言い方だけど、彼女はモテる女の要素を全て兼ね備えている。
 清楚で可愛いとか……トップオブトップ。
 透き通る金髪ショートにピアスを開けて、いつの間にか喧嘩番長として「姐さん」なんて言われて慕われている私とは正反対だ。
 別に今の自分は嫌いじゃないけど、もう少し身長あったらなぁ、とか思う。
「もう、とっくに下校時間過ぎてるよ」
「へ?」
「へ? じゃない! 紗笑、ずっと寝てるんだから」
 奈緒の呆れた声と共に私は窓の外に目をやる。
 ほぼ夕日が沈んでる……。
「早く帰らないと、弟が心配する」
「一緒に帰ろうか?」
「奈緒は彼氏がいるでしょ」
「紗笑、可愛いから誘拐されるかもしれないじゃん」
「喧嘩番長なめんなし」
 私はよく、見た目だけは「美少女」と言われた。もちろん見た目だけ。
 自分で言うのもなんだが、父はイケメン若社長と言われ、母はフランスと日本のハーフの元モデルだ。どうせなら身長も受け継ぎたかった。
 母の遺伝のおかげで、私は金髪が似合う顔なのだけど。
 光に当たると少し青く見える大きなつり目と、鼻筋の通った少し高い鼻に薄い唇……幼い頃は「お人形さんみたい」とかよく言われてた。
 まぁ、それが嫌で、暴れる野良猫のような性格になったのだけど。
 ……世間はこんな二人の間に生まれた私を羨ましいなんて言うけど、実際そうじゃない。
 お金持ちで美形な両親を持ったからこそ、命を狙われる。
 
 両親は3年前に殺された。 
 当時中学二年生と生まれたばかりの弟を残して……。
 私が高校二年生になっても犯人は未だに捕まらない。
 あの日のことは今でも鮮明に覚えてる。

「ねぇ、本当に危ないよ」
 奈緒の言葉に私はハッと我に返る。
 私達の足音が廊下に響く。もうほとんどみんな下校していて、教室に残ってる人はいない。グラウンドに運動部が何人か片付けをしているのが視界に入った。
「紗笑〜、聞いてる? 私と彼氏が紗笑の家まで送ってくよ?」
 心配そうに私を見つめる彼女を見て、私はフッと笑って奈緒の頭を優しく撫でた。
「大丈夫」
 私の言葉に奈緒は顔を赤くする。
「もう! イケメン!」
 ……それ褒め言葉だよね?
 声を大にして、興奮気味に奈緒はまた言葉を発した。
「ちっさくて美人でカッコいいとか羨ましいよ!」
「学校のマドンナが何言ってんの」
「喧嘩さえしなかったら、紗笑は余裕でマドンナになれるよ」
「絶対なりたくない」
「またまた〜。なんだかんだ言って、実は狙ってるんじゃないの?」
「うん」
「え? まじ」
 奈緒は、目を見開いて驚く。
 こういう素直なところが本当に可愛い。
「嘘だけど」
「え? え? もう! なにそれ!」
 私は戸惑う奈緒に舌をピッと出して、笑った。
 
 ああ、平和だなぁ。
 そんなことを思いながら、校門を出た。
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