出逢いがしらに恋をして
 そんなふうに気楽に喜んでいたのだけど。
 
 そのあと、宮沢さんはわたしに一抹の希望を与えてしまう、
 なんとも罪深い一言をのたまった。

「そっか。朝もエレベーターで一緒になったし、家も近いし、
 なんか縁があるのかもな。俺たち」

 え、縁?
 わたしと宮沢さんが……縁⁈

 その一言で、わたしのなかで宮沢さんとの距離がグーンと近づいてしまった。

 先約済みの人を好きになっても仕方がないと、無理やり押さえつけていた気持ちが、
 風船にヘリウムを注入したみたいにブワッと膨らんだ。

 完全に堕ちた。
 好きになってしまった。

 うわー。どうしよう。

 恋する前から失恋が決定している相手なのに。

 前途は多難でしかないのに。

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