出逢いがしらに恋をして
 降り注ぐ陽光のようなあたたかい笑みを浮かべて、その人は挨拶した。

 「長ったしい名前で恐縮です。ジュリオでも、ジュリーでも、なんならタロウでも好きに呼んでください」

 それから、すっと背筋を伸ばしてオフィスを見回し、
「よろしくお願いします」と深々と頭を下げた。

 女子社員の漏らしたため息が、小川のせせらぎのようにオフィスを満たしていく。

 ジュリアーノって。

 普通だったら、悪いけどちょっと笑ってしまいそうな名だけど。

 でもこの人には「その名前しかありえないでしょう」って言うほど、よく似合っている。

 挨拶は続いていた。

「本社に入社したのは2年前ですが、中途採用なので今年29になります。
 イタリア人と日本人のダブルでこんな顔してますけど、
 育ったのは日本なんでイタリア語はまったく話せません」

 へえーっと声があがる。

 だから、こんなにエキゾチックな容姿なのか。納得。
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