出逢いがしらに恋をして
 いつもの穏やかな表情がそこにあった。

 切なさがこみ上げてくる。

 こうして話をすればするだけ、一緒に過ごせば過ごすだけ、
わたしのなかには彼への想いが無限に募っていく。

 出口のない想いで、胸がはちきれそうだ。

 あなたが好きです、という言葉が喉元から飛び出しそうになる。

 聞く前から答えはわかっているのに。

 でも、プレゼンが終わるまではこの気持ちは抑えておきたい。

 告白して、気を使われて、気まずくなるのは耐えられない。

 大きく息を吸って、かろうじて本心を飲み込んだ。

「何か言おうとした?」と訊かれ、またぶんぶん首を振った。

「じゃあ、そこだけ直しちゃって。そしたら、帰ろう」

「はい」

 そう答えるのがやっとだった。
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