出逢いがしらに恋をして
 本社までは徒歩2分。

 通りを挟んだ向かいのビルだ。

 通勤で見慣れた風景だけれど、今日はまったく違って見える。

「まだ時間は充分あるから、ゆっくりで大丈夫だよ」

 気が焦って速足になっていたわたしに、宮沢さんがにこやかに語りかけてくる。

 いつもなら、この声を聞くだけで気持ちが上がるのに、
今日は緊張のほうがはるかに優ってる。

 信号が青になるのを待っているとき、宮沢さんに尋ねられる。

「緊張してる?」

「はい……」

 彼はわたしのほうを見て、

「企画もプレゼンも完璧だよ。保証する」

 真面目な表情できっぱり言った。
< 70 / 99 >

この作品をシェア

pagetop