レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。
「お話はよく分かりました。ただ,わたしの一存では何とも……。父が戻りましたら,わたしから父にこのことは伝えておきますわ」
「お心遣い感謝致します,皇女殿下。陛下が不在の時に来てしまったので,話を聞いて頂けるかと頭を抱えていたのですよ」
かれは安堵(あんど)したように,リディアに(こうべ)()れた。そして飲みかけのティーカップをテーブルに置き,客人は長椅子(ながいす)から立ち上がる。
「それでは,私はこれで失礼致します。陛下にもよろしくお伝えくださいませ」
「ええ,必ず伝えます。――お国へは,これからお戻りに?」
客人を見送ろうと,一人()けの椅子から立ち上がったリディアは,ドレスの長い(すそ)(さば)きながら彼に(たず)ねた。
「いえ,一週間ほどはこのレムルに滞在(たいざい)する予定ですよ。もう宿(やど)も取ってありますし」
レムルとは,このレーセル帝国の帝都であり,皇帝一族が暮らすレーセル城も,このレムルの(はず)れに建てられている。
「まあ,そうですの?でしたら,父が直接,宿を(たず)ねるかもしれませんわ。宿の名前を(うかが)っても構いませんか?」
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