レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。

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――その少し前。リディアが城内へ戻っていくのを見届けたデニスは,宿舎の玄関をくぐろうとしていた。灯りが消えたはずの玄関先に,ランタンの灯りと大柄な人影を,彼は(みと)める。――城下町に飲みに行った先輩(せんぱい)兵士が戻ってきたのだろうか?
(いや,違う。あれは……)
「ジョン?」
デニスが自らのランタンで照らすと,その男はやっぱりジョンだった。
「デニス,戻ったか。――中庭で,姫様と逢引きしていたのか?」
開口(かいこう)一番でズバッと訊いてきたジョンに,デニスは苦い顔でボヤく。
「まあ,そうなんだけどさ。お前,他に言い方ねえのかよ……」
「俺は,遠回しな言い方が嫌いなんだよ」
カタブツなジョンは,デニスのボヤきをバッサリと斬り捨てた。
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