レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。
リディアは大臣(だいじん)を呼び,客人が告げる宿の名前を書き取らせた。
プレナの使者を見送った後,応接の間に残っていたリディアの元に,赤髪(せきはつ)を短く()った一人の長身の若者がやってきた。
(そで)なしの白い()(えり)チュニックに黒い革の下衣(ズボン)・防具として軽い(よろい)小手(こて)を身につけた彼こそ,十八歳になり,近衛兵として皇女リディアに仕える彼女の幼なじみの一人,デニスその人だ。
「よお,リディア。客人が来てるって女官に聞いたんだけど。もう帰ったのか?」
「デニス……。いいえ,レムルにしばらく滞在するんですって。何でも,お父さまにどうしてもお願いしたいことがあるとかで」
話の詳細(しょうさい)については,いくら幼なじみの近衛兵(デニス)が相手でも口外(こうがい)はできない。
だがデニスは,「ふうん?」と鼻を鳴らしただけで,興味を失ったように長椅子にドカッと腰を下ろすと,客人の飲み残しの紅茶に口を付け始めた。
「ちょっとデニス!お行儀悪いわよ」
ギョッとしたリディアが,(あわ)てて彼を(とが)める。まだ室内に残っていた大臣も,デニスの振る舞いに眉をひそめた。
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