レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。
「お父さま,父娘二人で語らうのは久しぶりですね」
「……ああ,そうだな」
彼は娘の顔色を窺うように頷く。――確かに,リディアと二人きりでこうして話すのは久しぶりかもしれない。
彼女が成長してからは,城を留守にして遠征(えんせい)だ外交だと国外へ出向き,忙しさにかまけて()()()()()として娘と接する機会は減っていた。たまに語ることといえば,政治に関する内容ばかりだったように思う。
「先ほどデニスを退室させたのは,彼に聞かせたくない話があるからではありません?」
父の性格を知り尽くしているリディアは,父が自分と二人になりたかった理由をそう推理した。
「ハハ,見抜かれていたのか。近く娘婿(むすめむこ)になるとはいえ,家臣に弱みを見せるのはどうかと思ってな……」
――やっぱりだ。父は自尊心が強い。友人であるデニスの父ガルシアにも,ジョンの父ステファンにも,弱みを見せたことがないのだ。
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