レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。
(なぐさ)めるように,背中をトントン叩いてくれる父に,リディアは何だか救われた気がして思わず涙腺(るいせん)(ゆる)みかけた。(あふ)れる寸前の涙を指でそっと拭う。
「……はい」
頷いてから,リディアは言葉を続けた。
「分かってはいるんです。護衛をしてもらっている以上,危険な目に遭う心配は常に付きまとうのだと。覚悟はできていたつもりだったのに,実際に彼が傷付けられたら,急に目の前が真っ暗になった気がして」
彼がもし死んでしまったら?……そんな恐ろしい考えが,ふと頭をよぎったのだと,父に打ち明ける。
「実は先ほどデニスの前で,大泣きに泣きました。彼がかすり傷で済んだことにホッとして……。その時に分かったんです。この涙は,わたしが彼のことを本気で愛している証なのだと」
「そうか」
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