レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。
ジョンは自嘲(じちょう)ぎみに肩をすくめる。リディアは彼がどんな想いでそう振る舞ってきたのかを考えると,やるせなかった。
「自分に嘘をつき続けて,苦しかったでしょう?」
「はい,苦しかったです。だから今日,こうしてお話しできてスッキリしました。これでやっと,胸のつかえが下りました。姫様,ありがとうございます」
彼は苦しみからやっと解放されたようで,リディアに久しぶりに心からの笑顔を見せてくれた。幼い頃によく見せてくれた,屈託(くったく)のない笑顔だ。
「いいえ,わたしは別に感謝されるようなことはしていないけど」
とはいえ,感謝されても悪い気はしない。彼女も微笑みで返した。
そして,どうせなら今ここで,彼に軍の人事に対する意志確認をしておくのも悪くないと思った。
「――あのね,ジョン。わたしは新皇帝として,軍の人事をお父さまから任されたの。あなたにも,何か地位や役職を授与(じゅよ)しようと思っているんだけど,受けてくれる?」
喜んで受けてくれるか,それとも謙虚に断られるか?思案顔のジョンからは,判断がつかない。
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