レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。
「陛下……」
「そんな他人行儀に呼ばないで。前みたいに名前で呼んで」
ジョンは「畏れ多い!」とためらったが,「リディア様」と今回も「様」付けで彼女を呼んだ。
(だから,敬称はいらないってば)
リディアは心の中で抗議したが,もう諦めた。即位前ならまだしも,皇帝になった自分のことを,この生真面目な男が呼び捨てにできるはずがないのだから。
「――あのですね,陛下。実は私,ジョン様から交際を申し込まれたんです」
エマが恐る恐る,リディアに衝撃の事実を打ち明けた。
「えっ,そうなの?よかったじゃない!」
エマは前々からジョンに好意を寄せていたらしい。それにはリディアも気づいていた。
けれど,ジョンの自分への想いも知っていたので,表立って彼女の背中を押すことができなかった。心優しいリディアは,ジョンを苦しめてしまうことを危惧(きぐ)していたのだ。
「はい!私もジョン様と二人で,お二人に負けないくらい幸せになりますわ!」

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