レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。
****
――その夜。城の大広間で催された祝宴もお開きとなり,リディアとデニスの若夫婦は元はリディアの寝室だった一室に戻った。今日からここは,二人の部屋となるのだ。
「あのさ,リディア。こないだから,一つだけ気になってたことがあるんだけど」
「なあに?」
就寝準備が整ってから,デニスがベッドに腰かけるリディアの隣りに腰を下ろし,訊ねた。
「城下町でさ,お前がブチ切れたことがあったろ?オレがケガしてさ。その時,オレでもイヴァン様でもなく,ジョンの声で我に返ったのはどうしてだ?」
嫉妬も少しはある。けれど,二人っきりになった今だからこそ,聞きたいと思った。
そんな彼の思惑を見越して,リディアは笑う。そして,理由を話した。
「あれは,ジョンだけがあの時冷静だったからよ。デニスもお父さまも,感情的になっていたから」
「えっ,それだけなのか?」
「それだけよ」
目を丸くしたデニスに,リディアはあっさりと頷く。