レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。
ちなみに,デニスが乗ってきた馬もリディアが預かっているのだが,それはさておき。
「ジョン,どこに行ったのかしら……?」
しばらくキョロキョロと(あた)りを見回していると,露店(ろてん)が並ぶ一画の方からジョンが大股に歩いて戻ってきた。手には何やら,小さな紙の包みを持っている。
「すみません,リディア様。お声もかけず,離れてしまって」
「本当だわ。心配してたんだから。どこへ行ってたの?」
リディアが問うと,彼は手にしていた包みをスッと彼女に差し出した。
「これを,リディア様のために買いに行っていたんです。あちらの露店で見つけたので」
ジョンは自分が来た方向を指さしながら,そう答える。
リディアが受け取った包みを開くと,そこにあったのは小さな髪留めだった。木製で,港町らしく可愛らしい魚などの絵が,絵の具で(えが)かれている。
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