レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。
リディアは恋人(デニス)の隣りの椅子に座ると,ニッコリ笑って「ええ,ありがとう」と答えてから,ジョンに聞こえないようにこっそりとデニスに訊ねた。
「ところで昨夜のこと,ジョンに話していないでしょうね?」
「ああ,大丈夫だ。訊かれはしたけど,『何もない』で通したぜ。オレ,とぼけるのは得意だからな」
答えるデニスの声も小さい。今が朝でよかった,とリディアは思った。もしも夜だったら,酔っ払い達の怒号(どごう)で二人の会話は成立しなかっただろう。
酔っ払いといえば,昨夜ここで酒盛りをしていた客達は,まだ下りてきていない。酔い潰れてまだ眠っているのだろうか。
「――ところで,今日はどうするんだ?」
そう切り出したのは,この旅の言いだしっぺであるデニス。厨房からは,何やら煮込み料理のいい(にお)いが(ただよ)ってくる。
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