俺様専務に目をつけられました。

この専務室の窓は大きく、少しスモークが入っているから余計に外が暗く見えて嫌い。特に今日のような雨の日は。

専務のデスク後ろの窓に目をやった瞬間、あの時のようにピカッとものすごい光と共に空を引き裂くようなものすごい音、窓がビリビリと揺れた。目の前のビルに雷が落ち、部屋の電気が消える事は無かったがパチパチと数秒間点滅した。

「すごかったな。隣に落ちたのか？」

「そうみたいですね。停電しなくてよかったです。」

専務と高杉さんは何でもないかのように会話をしている。
窓の外から目線を戻した専務が私の異変に気がついた。

「晴香？」

専務が私の名前を呼んだのは分かっていたが、耳を抑え蹲ったまま顔が上げられない。だってまだ雷鳴が聞こえているから。専務は私の異様な怖がり方に驚いたようではあったが直ぐに駆け寄り抱きしめてくれた。

「晴香、大丈夫。俺がいるから大丈夫だ。圭吾、ブラインド閉めてくれ。」

「分かった。」

直ぐに高杉さんがブラインドを閉めてくれたおかげで光はほとんど気にならなくなった。音も片耳は専務の手で塞がれ、もう片耳は胸に押し付けるように抱きしめられていたおかげで、雷鳴よりも専務の心音が耳に響き気にならなくなった。規則正しく打たれ聞こえてくる心音、少しずつ強ばっていた体も楽になり落ち着きも取り戻してきた。
何分そうしていただろうか、強く抱きしめられていた腕が、ようやくモゾモゾと動き出した私に気がつき力が弱まった。

「晴香、もう平気か？」

声はまだ出そうにないので、コクンと頷いた。

「なんか飲むか。圭吾、何か持って来てやって。」

「おう。」

私のために高杉さんを使わせてしまって申し訳ないが、今は甘えさせてもらおう。
高杉さんが持って来てくれたペットボトルの水を飲んで、やっと声が出るようになった。

「ありがとうございます。高杉さんもすみません。ありがとうございます。」

「いいえ。もう大丈夫ですか？」

「はい。もう落ち着きました。」

「晴香、雷ダメなんだな。でも、あの怖がり方は・・・、怖い思いしたことあんの？」

七歳の時の雷の話を聞いて専務と高杉さんは今回の私の反応に納得がいったようだった。

「でも普通に鳴ってる分にはそこまで怖く無くなったんです。今回は目の前に落ちるのを見てしまって、一瞬であの時の事がフラッシュバックしたと言うか。」

「そっか。」

その後暫く三人でお茶をし、私が落ち着いたことで専務室を訪れた本来の用事を済ませ総務課に戻った。