俺様専務に目をつけられました。
一時間経っても救助が来ない。圭吾がもう一度連絡を入れたが返答はさっきと同じだった。やっと救助が来たのは停電が起こってから三時間以上過ぎてからだった。

ブブブ、ブブブ、晴香に救助が来たことを伝えるため電話をかけるが出ない。呼び出し音は鳴っているから充電が切れているわけではない。一瞬で背中に汗が流れた。

「電話に出ない、早く助け出してくれ!」

エレベーターは晴香の情報も踏まえると五階と六階の間に停まっていると思われる。六階ホールの扉が開けられるとちょうど足元にエレベーターの天井が見えた。
消防隊員が安全を確認し天井のコックを開け中を確認している。

「要救助者確認。中に入ります。」

そう言って一人の隊員が中に入って行った。中から『三栗さん、わかりますか?』と隊員の声は聞こえるが晴香の声が全く聞こえない。
エレベーターの扉近くに立っていてもムッと暑い空気が中から流れ出てくる。ビル内の空調も止まり暑くはなっていたがエレベーターの中から流れ出る空気はその倍ほど暑く感じた。

「意識がありません。もう一人補助お願いします。」

中から聞こえて来た声に心臓が止まるかと思った。思わず駆け寄ろうとした俺を圭吾が止めた。

「お前が今行ったら邪魔になるだけだ。」

「ああ、わかってる。晴香に付いて病院へ行く。後は任せていいか?」


晴香が中から救助されるのにかかった時間はそれから十分とかからなかったと思う。でも今の俺には一時間にも二時間にも感じられた。
待機していた救急車に一緒に乗り込み病院へ向かった。救急車の中で横たわる晴香の顔は真っ赤だった。『たぶん熱中症だと思います。』診断結果は救急隊員が言ってたとおり熱中症だった。
晴香は病院のベッドで点滴を繋がれ眠っている。命に別状なくてホントによかった。

俺はいつの間にか彼女の事がこんなにも大切になっていた。
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