俺様専務に目をつけられました。

12.

『行くわ。』そう言って颯爽と部屋を出て行く専務を私はただ茫然と見送った。



今、今、専務、私にキスした!?



額にだけどキスされたと実感したとたん一気に体中が熱くなった。
ちょうど朝食を運んで来てくれた看護師さん、

「三栗さーん、ご飯ですよ。食べれそう・・で・す・か?って、三栗さん真っ赤!えっ?さっきの検温では平熱だったのに!しんどい?つらくない?」

今年の新人だと言う彼女は余りの私の赤さに少しパニックになっていた。たまたま病室の前を通りかかったベテラン看護師さんが慌てて部屋に入って来た。

「山本さん、どうしたの、そんなに慌てて。」

「あっ、河合さん!三栗さんが赤くなってて、今朝は平熱だったのに、また熱中症の症状が。」

先輩看護師にオロオロと状況を説明する新人さんとは違いベテランさんは私をじっと見た後、何かを思い出したかのように新人君を落ち着かせだした。

「山本さん、落ち着きなさい。患者さんの前で看護師がうろたえたら患者さんが不安がるでしょ。」

そうそう、もっと落ち着いたほうがいいよ。さすがベテランさん。

「それに三栗さんをよく見て、もう赤くないわよ。」

そりゃね、新人さんのあの慌てようを見てたら専務にキスされた事も一瞬で飛んでって、火照った体も顔も一気に冷めたさ。

「へっ?あれ?」

「ごめんなさいね、騒がしくて。」

「でもホントに赤かったんですよ!」

恥ずかしいから、もう言わないで新人さん。たぶんベテランさんは理由わかってるから。

「うーん、それはさっき様子を見に来ていた彼氏さんのせいじゃないかな?」

ボンッとまた赤くなってしまった。
『ほらね。』って微笑みながらベテランさんは新人さんを連れ部屋を出て行った。
それにしても新人さんはいつもあの調子なんだろうか。あのテンパりかたは看護師として致命傷では?同じ新人として少し心配になった。
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