俺様専務に目をつけられました。
一時間ほど車を走らせやって来たのは天保山。

「クルージングってサンタマリアに乗るんですか?」

「乗った事あるか?」

「ないです。」

『そうか。』と返事をする専務はご機嫌だ。
昨日の予定確認といい、今日の買い物といい、なんかいつもと違う。変だ。
でも『変です』とも言えないまま乗船時刻になったので船に乗り込んだ。

約六十分のクルージングが始まった。通されたのは新幹線で言うとグリーン車?のような席。飲み物を飲みながらソファーに座ってゆったりと外の景色を楽しむ。でもせっかく船に乗ったんだから潮風を感じたい。

「享くん、デッキに出ちゃダメなんですか?」

「出れるよ?行く?ちょっと寒いかもしれんけど。」

「はい!」

もう十月、夜の海の風は冷たかった。暫く景色を楽しんでいると後ろから専務が抱きしめて来た。身長百八十センチを超える専務が百五七センチしかない私を抱きしめると、すっぽりと腕の中に納まってしまう。

「やっぱり風が冷たい。風邪ひいたらあかんし。」

少し前までの私なら『大丈夫です』って言いながら逃げ出していただろう。
一か月前のあの雷の日以来、専務の腕の中が気持ちよくって落ち着く事を知ってしまった私は逃げ出そうとも思わなくなっていた。
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