俺様専務に目をつけられました。
「享くん?昨日からなんか変じゃないですか?」

普通なら事前に相手の予定を聞いてから約束をするのだが、この専務に限っては今まで一度たりとも事前に予定を聞かれた事も無かったのだ。それに今日だって朝から変だし、今も・・・。

「何が?」

「だって今まで私の予定聞いたこと無かったですし、今日だって・・・。」

「んー、浮かれてんのかな?」

何に?

「俺、誕生日なんだ。三十になっておかしいかもしれへんけど誕生日に好きな奴と一緒に入れる事が初めて嬉しいと思った。」

へっ?えっ?誕生日?
私は専務の方へ向いた。

「享くん、今日誕生日なの?なんで前もって教えてくれないんですか!」

「前もって言って断られたらイヤだから。」

「でも私プレゼントも用意できてないじゃないですか。これ降りたら行きましょ!買いに。」

「いいよ。・・・いや、プレゼントなら欲しいものがある。」

よかった。買いに行くって言っても専務の好みなんてわからないし、欲しい物言ってくれると助かる。

あっ!でも専務の持ち物、ブランドばっかりだったような・・・。
私、買えるかな・・・。

「何ですか?教えて下さい。」

私でも買える金額でありますように。祈りながら専務の答えを待った。

「・・・・・。晴香。」

「・・・・・・・・・・・・・・へっ?」

「晴香が欲しい。・・・・、晴香、好きだ。この後も一緒にいて欲しい。いい?」

そう聞いてきたくせに返事も聞かず私の唇を塞いだ。

「んっ。」

何度も何度も角度を変え塞がれ離されない唇。キスが初めての私は離された瞬間に息継ぎをするがだんだんと苦しくなってきた。胸をバシバシ叩きやっと解放された唇、『はあはあ』と息切れをおこす私を見て専務はやけに嬉しそうだ。

「晴香、もしかしてキスするの初めて?」

そう聞かれ頷く事も出来ず赤かった顔が一段と熱くなった。

「そっか。晴香、鼻で息をして。」

そう言うとまた唇を塞いできた。うまく鼻だけでなんて息出来ない。唇が離された瞬間、大きく息を吸い込む。

「ぷはっ、んっ。」

どれくらいキスをされていたのか、港への到着アナウンスが流れだしようやく唇が離された。
今外で船の上だったことを思い出し、恥ずかしさで顔は真っ赤だし、それにキスの余韻で足にうまく力が入らない。

「歩ける?ムリそうなら抱っこする?」

今までで一番の笑顔を浮かべる専務!。

絶対に嫌です!

絶対に今のキスを他のお客さんにも見られてただろうに、その上抱っこで下船なんて、恥ずかしすぎて死ぬ。意地でも頑張って自力で歩く!

「大丈夫です。自分で歩けます!」

「残念。」
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