俺様専務に目をつけられました。
最初に診察をおこなってくれた男性医師から女性医師に引き継がれると違う診察室へ案内された。
そこは産婦人科・・・。

「三栗さん、これが赤ちゃん。まだ五週目だから袋しか写ってないけど。」



赤ちゃん・・・。



「失礼だけど、三栗さん独身よね?急に言われても決められないだろうけど、産むにしても諦めるにしても早めに決断した方がいいわ。とりあえず心音も今日は確認できないから一週間後に診察来れる?」

不安で一緒に入って来てもらった瑠奈の腕をグッと握り頷いた。

「じゃあ九日の十時に予約入れるけどいいかな?」

「はい。お願いします。」

そう答えるのが精いっぱいだった。





まだ貧血でのふらつきはあるが、病院で処方された薬を飲みながら会社には通った。
上司に昨日貧血で倒れ九日は再診があると有休を取らせてもらう事にした。両親やおじいちゃんには再診の結果を聞いてから報告しようと決めた。

ふらつく体で今週を乗り切った金曜日、会社を出たところで佐伯さんに呼び止められた。

「三栗さん、話があります。ちょっといいかしら?」

嫌な予感しかしないが断れる雰囲気ではなかった。裏通りにあるカフェへ移動し彼女の話を聞く事にした。

「遠回しは嫌いなの。享祐さんと別れてくれるかしら。」

享祐さん?彼女から専務でもなく、東郷さんでもない呼び名を聞いて目を見張った。

「二十日の七十周年パーティーで私たちの婚約が発表されるの。享祐さんはあなたの事を愛人としておくつもりかも知れないけど、私は愛人なんて認めないわ。だから別れて下さる?世間的にも新婚早々、愛人がいるなんて噂がたったら彼の評判も悪くなるし。まあ最近はあなたに会いに行くことも減ってるようだから、お願いしなくても別れるつもりなのかもしれないけど。」

その後も佐伯さんは何か言っていたが私の耳に入って来なかった。
ブッブッ、とスマホの着信を告げる振動で思考が戻ってきた。目の前の席に目をやると佐伯さんは既に帰っていなかった。

「はい。」

「晴香、今どこ?」

「裏通りのカフェ。」

「すぐ行くから待ってて。」

飯田君が佐伯さんと歩いて行く私を見つけ気になり瑠奈に連絡を取ったらしい。やって来た瑠奈は青ざめた私を見て自分の家に連れ帰った。

「何があったの?」

会社を出たところで佐伯さんに呼び止められ、一方的に告げられた内容を覚えてる限り話した。『何それ!』と瑠奈は佐伯さんだけでなく専務に対しても激怒し、直ぐに事実を確認して赤ちゃんの事を話すべきだと言った。
だが明日から欧州フェアが始まるため忙しくしているだろう。真実を聞かされるのも怖い。来週の診察結果が出たら話すと約束しその場の怒りは治めてもらった。
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