俺様専務に目をつけられました。
晴香に電話やメッセージを送り続けたが反応はない。
仕事を早めに切り上げ家に通った結果、木・金で分かった事があった。たぶん晴香は今この家にいない。七時前に家に来ても誰もいない、そして家の前で待っていると父親が仕事から帰って来るが俺の方をチラッと見るだけで黙って玄関を閉められる。
土曜日は家にいなかった。10時過ぎまで待っていたが父親も帰って来なかった。晴香の所に行っているのだろう。
日曜、フェアの最後を見届け家に向かうと、ちょうど父親と茂三さんが何処からか帰ってきた所だった。『東郷さんもしつこいね。もう晴香の事は』そう父親が話ているのを茂三さんが止めた。

「享祐君、中に入りなさい。」

「父さん!」

父親は納得がいかないようだったが茂三さんが話を聞きたいと言ってくれた。『わしは晴ちゃんに笑顔を取り戻して欲しいんじゃ。』その言葉を聞き体が、心が凍りついた。

俺の言動が晴香から笑顔を奪った・・・。




「初めに聞く。晴香とは遊びだったのか?どこぞのお嬢様と結婚が決まり晴香は邪魔になったか?口留めでもしに来たのか?」

「幸生、落ち着け。」

玄関先で追い返された時とは比べようもないほどの怒りが父親から感じられる。

「結婚とか口留めとかそんな事は、ただ晴香と会いたい、誤解があるならときたいだけです。」

怒りが収まらない父親を宥めつつ茂三さんが晴香の状況を教えてくれた。貧血で倒れ救急車で運ばれたとは知らなかった。それにしてもそこまで体調が悪いのに医療体制が弱い田舎で療養していても大丈夫なのか気になった。

「そこは大丈夫じゃ。近くに総合病院もある。それよりも精神を安定させる方が優先じゃから。」

俺が原因か・・・。
まずはこの二人の誤解を解いて晴香に会わせてもらうしかない。

「結婚すると言うのは事実ではありません。確かに親父が結婚話を勝手に進めていますが、俺ははっきりと断ってます。」

「じゃが晴ちゃんは、その相手から結婚するから別れるように言われたんじゃが?プレゼントも貰ったとか。他にも・・・。」

はっ?佐伯が晴香に直接言った?

「違います!その相手とは会社で仕事上、顔を会わせますがプライベートで会ったことも無い。俺が一緒にいたいのは晴香だけです。」

「でも今月のパーティーで発表されるんでしょ?東郷さんが反発しても政略結婚なら止められないでしょう。だったらもう晴香の事はこのまま静かに・」

「止めます!絶対に。どんな事をしても止めます、だから晴香に会わせて下さい。」

俺は人生で初めて土下座をした。
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