夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】
ーートサッ。
「あ!っ……やだ。ごめんね?」
私は手から床に落ちてしまったぬいぐるみを拾い、撫でながら謝った。
それは、三毛猫のぬいぐるみ。猫バロンにそっくりな、ヴァロンが手作りしてくれた大切なぬいぐるみだった。
アラン邸に来てからニ週間程。
未練を残さない為に、私がここに持ってきたものは最小限のもの。
お母さんの形見の宝石箱、子供達の写真が保存されたポケ電、『月姫の祈り』の絵本、そしてこのぬいぐるみ。
大きな旅行用の鞄に入れてきたのはそれだけで……。普段は人目につかないように、そのままクローゼットにしまっていた。
いつもは夜中とか、絶対に誰にも見られない時間にしか出さないんだけど……。今日は急に抱き締めたくなったのだ。
ここでの生活が辛い訳ではない。
むしろ、十分過ぎる程に大切にしてもらっているし、無理にではなく私は微笑う事が出来ている。
それなのに……。
「それなのにやっぱり寂しい、なんて……。贅沢、だよね?」
時折、ヴァロンの生死が不明だった時よりも孤独を感じる自分がいた。