夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】
「僕、は……?」
「……会議中に倒れられたのです。覚えて、おられますか?」
毒のせいなのか、まだ出しにくそうな掠れた声で尋ねる兄上に、あの会議室での事を覚えているのか聞き返した。
すると、少し間をあけてボーッと考えるようにしていた兄上が、うつろだった目を突然見開いて言った。
「ミネア、さんはっ……?」
「!……え?」
ミネアさんはーー?
この状況下で突然発せられたその言葉に、驚く。そんな私の腕を掴んで、兄上は必死に声を絞り出すようにして言葉を続けた。
「っ……僕がッ、倒れたって……言わ、ないでッ……!」
「っ?」
「言わ、ないでッ……!ぼ、くは……大丈夫、っ……だ、から!」
「ーーッ……、っ」
こんな時まで、自分よりも他の誰かの心配をするのかーー?
兄上の言葉が更に私の胸を激しく打つ。
さっき、ディアスが言っていた。
この事はミネア嬢の耳には入れない、と……。
日頃から、兄上が頼み込んでいたそうだ。
"僕の身に起きる事は、ミネアさんに絶対に言わないで"……と。
自分は誰よりも他の者の心配をするクセに、この人は他の者に心配される事を拒む。
何でも独りで護ろうと、抱え込もうとするんだ。
そしてそれを誰の手も借りず、誰に相談する事も、泣き言も言わずに……。
ーーいや。
たった一人だけ、いるのかも知れない。
兄上と喜びだけではなく、痛みや悲しみを分かち合える女性が……。
そして。その女性もまた、兄上としか全てを分かち合う事が出来ないのだ。
それを悟った時、私の中でようやく心が決まった。
……
…………。