夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】

光景も、言葉も、声も、全て鮮明に思い出せるのに……。それはもう戻る事の出来ない過去。


「……アカリ様。ご準備を始めても大丈夫ですか?」

ウェディングドレスの前から動く気配のない私に、気遣ったスズカが少し離れた背後から語り掛けてくれる。

スズカ。
アラン様のお邸に来てから、彼女には本当に色々と助けてもらった。身の回りの世話はもちろん、心のケアも……。
彼女がヴァロンの事を話してくれて、そして聞いてくれた事が、私にとってどれだけ救いになったか分からない。
スズカがいなければ、私はきっと今でも泣いていた。
溜め込まず、彼女に話せたから、その時間が私に冷静さを取り戻させてくれて、自らの運命を受け入れる勇気をくれたの。

私は思った。
私がアラン様に嫁ぐ、という運命はきっとどう足掻いても変えられないんじゃないか?って……。
ヴァロンに出逢った事によって、私の18歳の誕生日にその運命は一度変わったように見えたけど、きっとこれは私に決められた運命。
5年という時を経て、私はここに居るのだ。
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