夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】
***

そう自分に問いただすわたくしが思い出したのは、ヴァロンが脳の手術をする数日前。
彼に呼び出されて、病室を訪れた時の事。

夢の配達人のヴァロンと、想いを寄せていたマオ様が同一人物だったと知った時は正直驚いたけど、本人を目の前にしたらすぐに納得出来た。
わたくしは、"この人"が好きなのだと……。


「……"行きなさい"、じゃなくて"生きなさい"、だったんだよな」

「?……何がよ?」

「母さんが、ガキの俺に最後別れ際にかけてくれた言葉。
当時は"売られる"ってショックが強くて"行きなさい"だと思ったんだけどさ、あの言葉は間違いなく"生きなさい"だった」

「……なんで、そう思えるようになったの?」

そんなヴァロンの口から初めて聞いた彼の過去。
自分にそんな事を話してくれて嬉しい気持ちと、内容が内容なだけに嬉々として聞けない複雑な心境だった。
それなのに……。

「ん?それは……アカリのおかげだな!」

「!……は?」

「別れ際の笑顔がさ。あの時の母さんと、俺に離婚を申し出てきた時に最後見せてくれたアカリの笑顔が、そっくりだったんだ」

「……」

「"俺に生きてほしい"って、涙を堪えて、全力で笑顔にその想いを乗せてくれてた。だから、そう思え……ーーって!おい、待てよ」

「惚気を聞かせたいだけなら帰るわ」

聞いて損したーー!!
そう思って椅子から立ち上がろとしたわたくしを、ベッドに座ったままのヴァロンが腕を掴んで引き止める。
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