夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】

分かってるわよ。
この男が奥様一色だって事は、温泉旅館で見た時から分かってる。

……けど。
分かってる、けど!何だかやっぱり、いざ彼の口からハッキリと奥様の事を語られるのは嫌だった。
それに、……。

「っ……」

「何怒ってんだよ?」

わたくしがキッと見つめると、ヴァロンはさっきまで奥様の事を語っていた時の表情とは全く違っていて……。あの、優しいというか、彼をいっそう美しくするあの表情が"奥様だけのもの"という事が堪らなく悔しい。

わたくしだって、ヴァロンの特別になりたいーー。

それはリオン様に恋をした時よりも、更に彼を愛してしまっていた証だった。

掴まれた腕から伝わってくる体温でさえも、ずっと触れていて欲しいと思うくらい大切で愛おしくて……。自ら、振り解く事が出来ない程の、想いだった。

だから、この日ヴァロンがわたくしを頼ってくれて"託してくれたもの"が、彼とわたくしを強く繋ぐ絆のようで……手放せなくなってしまったの。
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