夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】

「っ、……ディ……アナ、……」

胸を貫いた直後。
重い身体をより掛けながら、シャルマ様は身近に居た私にしか聞こえない程の声で……。

ディアナーー。

最期に、私の本当の名前を呼んだ。


共に過ごす夜だけは、貴方は女の名前(本当の名前)で私を呼んでくれましたね?

それが、何よりも嬉しかったんです。
兄を失ったあの日、もう決して誰にも呼んでもらえないと思っていた本当の名前を、貴方は呼んでくれました。
そんな貴方の子供だから、きっと私はシオン(あの子)を産みたいと思ったのでしょう。

そう言ったら、貴方はなんて言いますか?
最期の言葉が私の名前で嬉しかったと言ったら、どんな反応をするのでしょうね?


「……おやすみなさい」

腕の中で息を引き取ったシャルマ様を一度だけギュッと抱き寄せ、私も彼だけに聞こえる程の声で囁いた。

呪縛(スペルバインド)に縛られていたのは、本当はこの方の方だったのかも知れない。
全てから解放されて永遠の眠りについたその表情は、とても安らかに見えた。

その表情を見て、この方の人生を自分の手で終わらせ(解放す)る事が出来た事を、私は心から嬉しいと思ってしまったのだった。
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