夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】

シャルマ様が、死んだーー?

動けない目の前で、信じられない事が起こった。
胸をナイフで貫かれ、ゆっくりと自分の元にもたれ掛かるように倒れたシャルマ様を抱き留めたディアスが、床に敷かれたカーペットの上にその亡骸を寝かせ、傍で(ひざまず)いている。

突然の事態に混乱してただただ立ち尽くしていると、背後から抱き付くようにしてオレの手を握っていた手がゆっくり離れ、その"何者か"は歩き出した。
そして、オレの正面に来ると司祭のようなローブを身に纏った何者かは、被っていたフードをバサッと取り、その顔をさらして言った。

「貴方はここに居ては駄目よ。
さぁ、すぐにこの場から離れなさい」

「!っ、……ぁ、……ヴァ、ロン……?」

自由になり、その姿見たオレの口から思わず出た名前。
頭では違うと分かっているのに、そう問うように言ってしまった。

目の前に居るのは女性だ。
横束ねにして肩から前に流した長い黒髪。そして漆黒の瞳の、美しい女性。
けれど顔立ちが……。射るような強い眼差しが、記憶を失くす前の兄上(ヴァロン)にとてもよく似ていた。
< 193 / 338 >

この作品をシェア

pagetop