夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】

すると、その瞬間。

「もう、いいのよ?苦しまないで……」

ーーえ、っ?

誰かがオレをフワッと抱き締めながら、囁いた。
母さん?と、感じたオレの心の中で、振り返った母さんが大好きな笑顔を見せてくれて……。オレの心の中の暗闇が、眩い光に解き消されていく。

……。
ゆっくり瞼を開けると、現実で抱き締めてくれていた人物が身体を少し離してオレを見つめて微笑む。
それは長い黒髪に、漆黒の瞳の、アンナ。

ーーなんて、綺麗な女性(ひと)なのだろう。

改めて、真っ直ぐに見て、そう感じずには居られなかった。
そして……。

「貴方、アランと言うのね?」

美しい声で名を呼ばれて、胸がトクンッと弾んだ。
瞳を逸らせずに居ると、優しい暖かい手でオレの涙を拭ってくれながらアンナは語る。

「その名前はね、私が産んであげられなかったもう一人の子供の名前なのよ」

「!っ……」

「まだ弟か妹とか分からなかったのに、ヴァロンったら絶対に弟だって言い切ってね。"弟が産まれたら、アランって名前にしよ?"って……」

何故だろう?
目の前のアンナは微笑っているのに、その言葉を聞いたオレの瞳からはまた涙が溢れた。
でも、今度はさっきとは違う暖かい涙が……。
"それ"は、オレがこの世での新たな生きる理由であり、存在価値になるには充分過ぎるものだった。
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