夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】

「っ……嘘、よね?」

「……」

「私が、……何者なのか知っていてッ……。それ、でっ……」

上手く言葉が出てこない。
一緒に過ごした時間が幸せ過ぎて、優しくしてくれた彼を好きになり過ぎていて、そのショックが隠し切れない。
そんな私に、まるで剥き出しになった心臓を直接ナイフで切り裂くように、リオの言葉が放れる。

「そうだよ。全部、知っていた」

「!!っ……」

「全て知っていて、僕は貴女と居たんだ」

その言葉は一瞬で、私の全てを奪っていった。
伸ばそうとしていた手の力も、語りかけようとしていた声も、この場から立ち上がろうとする気力さえも……。

「でも、それも今日で終わり。
……さよなら、アンナさん」

無気力状態になって、もう顔を上げる事も出来なくなった私にリオはそう言うと、くるっと方向転換をして遠ざかっていった。

……
…………。

翌朝。
目を覚ますと、現実でもリオの姿はなかった。

あれはただの夢だったのだろうか?

ーーいや、違う。
あれはきっとリオの能力(ちから)の一つで、私の夢の中に侵入して別れを告げたのだ。

直接顔を合わせて別れを告げる事が、自分には上手く出来ないと判断して……、……。

今なら、なぜ彼がそんな別れ方を選んだのかが分かる。
けれど。当時の私は、ただただ哀しみと、裏切られたショック、そして自分が今まで忘れていた全てを受け止めきれなくて……ヴァロンに、また辛く当たり続けた。
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