夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】
『……うん。
そうだよ、ね。ごめんね、母さん』
ヴァロンが私に語り掛けてくる言葉に乗せて、頭の中にある光景が次々と浮かんできた。
その光景とは、リオがいなくなってからこの子が私の為にしてきた事の数々……。
『よりにもよって、俺が……。
俺だけが残っちゃって、ごめんね』
この子は、私の言いつけ通り毎日毎日欠かさず勉強していた。
『……でも。俺、ここしかないんだ。
母さんの居る場所しか、分からないんだ』
掃除、洗濯、料理……。
リオがやっていた事を見様見真似で思い出しながら、小さな手を傷だらけにしながら頑張っていた。
『俺、大きくなったら大金持ちになるよ。
誰にも馬鹿にされないくらい、強くなる』
そして、私の為に……。毎日の食べる物を調達する為に、盗みをする事に心を痛めながらもスリを働いていた。
『どんな事があっても、俺だけは母さんから離れないよ?母さんの傍に居たいんだ。
俺の事嫌いでいいから、それだけ覚えてて?』
"働きたい"と言ってもまともに取り合ってもらえず、むしろ馬鹿にされ、"汚い"と追い返され、殴られても……。この子は涙を堪えて、"きっと大人になれは"と真っ直ぐ美しく心で前を向いていた。
そして、こんな厳しい状況下の中なのに"夢の配達人になりたい!"という自分の夢を、しっかりと見付けていた。
お母さんと、いつまでも一緒に居たいーー。
その想いだけで、一心に……。
こんな母親の為に、生きようとしていた。