夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】
その口付けは、対象者に深い眠りを与える。
普通ならば希血ではなくとも同じ一族であるアランにこの能力は効きにくい。でも、"魔女"という呼び名を否定出来ない程、私の能力はすでにその常識を上回っていた。
スッと束の間で深い眠りに落ち、力なく私に身をより掛けるアランを抱き留めながら床に両膝を着くと、予め洗脳していたこの式場の係員を呼び、彼を運び出すよう指示する。
「……ヴァロンと、仲良くしてね」
聞こえないと分かっていた。
けれど、言わずにはいられなかった想いを口にしてそっと頭を撫でると、私は運び出されるアランを見送った。
……。
これで灯油独特の匂いが充満する空間に居るのは私と、永遠の眠りについた兄と、リオに最後まで仕えてくれた彼女となった。
「……。
貴女も、よく働いてくれたわね」
「……いえ」
「ありがとう、もう行ってくれていいわよ。
……後は、私がやるから」
ディアス。彼女が女性である事も、リオに主人以上の感情を抱いている事も、出会った瞬間から悟っていた。