夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】
【シュウside】

堪え切れない、愛おしさが溢れたーー。

分かっていますよ、全部。
だからもう、そんなに苦しまないで下さい。

……そう伝える事が出来たら、どんなにいいんでしょうね?
けど、言いませんよ?それを口にしたら、君の想いを全部全部無駄にしてしまう事になりますから。


私は気付いていた。
ヴァロンの記憶が本当は戻っている事も。初めは本当に、全てを忘れていた事も……。
どちらの彼にも会ったから、分かってしまったんです。

それは微妙な声のトーンの違いだった。
去年久し振りに再会したヴァロンと、それから暫くして引退発表をする前日に会ったヴァロンの声が違う事に、私は気付いてしまった。
夢の配達人時代、色んな人物になりきる彼を見ていた私だから気付けたほんの些細な違い。自分ではない誰かを演じる時、彼の声は少しだけ落ち着いて低くなる。
それに……。

『明日の引退発表、やっぱり自分の口から話をさせて下さい』

世界的に有名だったヴァロンが突然夢の配達人の世界から消えた理由を聞かせて欲しいと、以前から押し寄せていた取材。"マオ"である時は、万が一彼に被害が及ぶ事があるかも……と正式な引退発表をしてこなかった。が、「本人が別の道を選んだのならばそろそろ取材を受けよう」と前最高責任者(マスター)である父と決めた。
しかし、事情が事情なだけに「記憶のないヴァロンに話させるのは酷ではないか?」と、取材を受けるのは私と父。二人で記者の対応をする予定だった。
< 257 / 338 >

この作品をシェア

pagetop