夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】
***

第一印象は、最悪だった。

「ーーと言うように、この別荘では……。
って!聞いているんですかっ?ヴァロン殿!!」

「ふぁ〜……っ」

任務に来て初日。
下宿部屋へ案内し、任務の詳細やこの別荘での事を説明している最中。その男は椅子に座って数秒ともたず席を立ち、勝手に部屋を歩き、窓を開けるとその窓枠に腰掛けて縦枠を背もたれにして欠伸をした。

それは、まるで迷い込んで来たクセに我が物顔で寛ぐ図々しい野良猫。
伝説の夢の配達人、と聞いていて私が想像していた姿とは全くの別人。知性も品性も感じさせない。
こんな不真面目そうな男が、この家の大切な運命を握るお嬢様の家庭教師だと言う事に私は不安しかなかった。

「ヴァロン殿ッ!!」

「あーーッ、うるせぇなぁ!
任務内容くらいちゃんと頭に入ってるっつーの!貰うもん貰うんだからキッチリやるよ。
……ま、あの無難そうなお嬢様が何処までついて来られるか。だけどな」

そう言って切れ長の目を細めてニッと笑う姿も、私には妖しい色気を放つ危険な生き物のようで……。
更に上着のボタンを上から数個外して着崩し、合間から首筋や鎖骨を晒す、その今までに見た事のない男性の淫らな姿に悪い印象しか受けない。
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