夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】

アルバート様の耳に入ってしまえば、一歩間違えば大惨事になる出来事だった。
いち早く私が気付き、別荘内の者には上手く機転を効かせて騒ぎにならなかったから良かったものの……。嫁入り前のお嬢様が召使いと一緒に何日も行方不明になっていたなんて、お相手の方の耳に入ったら縁談は即破談になっていただろう。

今回ばかりは見逃す訳にはいかない、と私は男の部屋を訪れた。
どんな強気に出られようども、言い訳されようとも、のらりくらりと流されるつもりはなかった。
それなのに……。


「ローザ殿、頼む。
俺をアカリの召使いから外してくれ」

部屋を訪れた私に、姿勢を正して、頭を下げながら先に口を開いたのは男の方。
完全に不意を突かれて、私は言葉が出てこなかった。

それは、願ってもない申し出。こちらから切り出すつもりだった内容で、男から提案してくれたのならば揉める事もなく、手間が省けるというもの。

でも、何故か素直に"良かった"と受け入れる事が出来ない。
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