夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】
相手はあんなに嫌な印象しかなかった男。
不真面目そうで、チャラチャラしていて、人をからかうような口を利く無礼な男。
今だって解雇される事を恐れて回避しようと企んでいるだけかも知れないのに……。
「……前言撤回」
「え?」
「あんたと初日に話した事、前言撤回」
前言撤回?なんの事を?
その言葉に記憶を巡らせながら疑問を抱いていると、頭を上げた男が前髪を上げるように額に手を添えて困ったように微笑った。
その切ない表情を見た瞬間、ドキンッと胸が弾んで。初めて私は、この男を美しいと思った。
「アカリと居ると、任務だって忘れる。
何が"見た目も経験も興味なし"だよな?……気になって、気になって、仕方ねぇよ」
なんて美しい瞳をしながら、アカリ様の事を語るのだろうか?
伏し目がちに何処か遠くを見つめる瞳があんまりに綺麗で、見惚れてしまう。
「このまま傍に居たら、アカリはどんどん俺の心の中に染み込んできて……後戻り出来なくなる。
だから、家庭教師はローザ殿に任せる。俺の事は警備にでもして、離れた場所から護らせてくれ。……頼む」
ただ当たり前の事を告げられているだけなのに、私の胸は男に共感したようにトクンッと音を立てた。
私は使用人として、今まで何があろうとアルバート様の御心のままに従ってきた。
お慕いしながらも、それは口にせず、表には決して出さず……。せめて、"使用人として特別"になれるように……と。
男の第一印象も、これまでの気になった事も、このひと時であっという間に帳消しになってしまった。