夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】
「迷惑かけたく、ないの……」
「うん」
「日の当たる明るい賑やかな場所よりも、夜の闇を静かに生きたいと、望む人だったから……」
「うん」
「……。でも、貴方からしたら巻き込まれて散々だったわよね?」
「うん?」
妊娠が発覚した時、本当の父親ではないのに婚約者という立場だった為に「逆玉だ」とか「上手くやった男」って言いたいように言われて……。それなのに『家族になろう』って、ずっと寄り添ってくれた。
今思い出しても、彼の良心を自分の良いように利用していただけだ。
「本当に、ごめ……」
「ーー散々だった、なんて思った事。一度もねぇよ」
「っ、え……?」
「あの時の俺は俺なりに、自分で人生を選んで生きてた。その人生を散々だった、なんて思わないし、思いたくもない」
「っ……」
「大変だったか?って言われたら、そりゃ大変な時もあったけどさ。……レノアーノに会う為だったんだ、って思えたら、全部帳消しだ!」
謝ろうとした言葉を遮って、ヴァロンはそう言うと微笑った。
何よ、意地悪。せっかく素直に謝ってお礼を言おうと思ったのに、何も言えなくなっちゃうじゃない……。
彼の言動にそう思いながらも、本当は分かっている。これがヴァロンの優しさなんだって。
その彼の優しさに救われて、わたくしはいつだってわたくしで居られるの。