夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】

「……え?なんですって?」

「それが……奥様が今後はお名前で呼んでほしいと。
そして、私達の事も名前で呼びたいと申しております」

奥様の申し出を相談すると、使用人長も少し戸惑った様子だった。
世間から見たら名前で呼び合う事など何ともない事かも知れない。が、この(やしき)では……。いや、アラン様が主人になってからは前代未聞の事。

アラン様が私達を名前で呼ぶ事はなく、呼ぶ時は「おい」や「お前」。使用人長でさえも、名前で呼ばれる事はなかった。


「奥様の申し出とあれば、奥様をお名前で呼ぶ事は許されましょう。
……けれど、私達が奥様に名を覚えて頂くような慣れ親しんだ行為はアラン様の気に触れるかも知れません」

使用人長は少し考えられたあげく、私に言った。

「はい。分かりました、そのようにお伝え致します」

その返答に口ではそう答えたが、正直私は奥様の申し出が驚きながらも嬉しかった。
"スズカ"、たった一度の自己紹介でその名を覚えて頂けて、優しい声で呼んで頂けた。
< 81 / 338 >

この作品をシェア

pagetop