夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】

本当に、信じられない。
使用人や調理師、警備や庭師など総勢40名程の名前をたった一度の自己紹介で覚えてしまうなんて……。
これには「皆さんの事も名前で呼びたい」と言っていた奥様の言葉を"口先だけの事だ"とは誰も疑えなくなっていた。


「よし!じゃあ自己紹介も終わったし、みんなでクッキー食べましょ?
こっちが普通のやつで、こっちがチョコ。あとアレルギーのある人はこっちを食べて下さい、玉子も小麦粉も使ってませんから」

それは当たり前のようで、実は1番難しい気配りだった。
この方がやっている事は、やろうと思って出来る事ではない。奥様が持つ美しい心が、そのまま形となり表に出て来ているのだ。


「……私、いただきます」

「私も、いただきます」

そんな奥様を目にして、心を動かされない人間はいなかった。
その場に居たみんなは次々と「いただきます」と奥方様のクッキーを受け取り、口にしては笑顔で「美味しいです」と伝えた。

「本当っ?良かった!」

その言葉と笑顔に奥様も弾んだ声でそう言って、微笑む。
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