Karma
気持ちを誤魔化すように、私は無理に話題を作った。


「響介のお母さんってどんな人?」

「母さん?」

「ほら、響介って料理上手いし、家事全般完璧だし。家でビシバシ花嫁修業とかしたのかなって」



響介は「花嫁修業か」と少し笑ったあと、伏し目がちに言った。


まずいことを訊いたかも、と私は思った。


「俺の母さん、小さい頃に交通事故で死んじゃったんだ。母さんの顔はよく覚えてないけど、料理の匂いだけは、なんとなく覚えてて。今でも料理を作ると、たまに思い出すよ。それが辛かった時期もあったな」


「そうだったんだ」


またひとつ、私の知らない響介の過去を知ってしまった。


「でも今は、メイとごはんが食べれて、すごく幸せだよ。辛いって感じたこともない。メイがいるだけで、俺は他に何も必要としないのかも」
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