Karma
「私の名前って“神崎メイ”でしょ? でもメイって、本当は多分、漢字で書くんだよ」
「え?」
それは今まで、一示さんにも打ち明けたことのない、私の胸に秘めていた話だった。
「忘れちゃったの。自分の名前なのにね。音でだけ覚えてたけど、“メイ”ってどう書くのか分からなくて、カタカナで書いてるの…」
響介は悲しげな顔をした。それが私の記憶喪失に胸を痛めているんだと伝わってくる。
「記憶を取り戻したら、私は本当の自分になれる気がするの。カタカナのメイじゃなくて、本当のメイに。バカみたいでしょ。けど、私の大切な夢なんだ…」
そこで一気に疲れが来て、私の意識は夢の世界に沈みだした。
そのとき、響介は私の手を握り、手のひらに指で何かを書いた。
何を書いたのかは分からない。けどなぜか、指先から懐かしい温もりを感じた。