【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
「――きて……起きて…お兄さん?」

「うわっ、っと?」

 眼前には少女の顔。
 座ったまま眠っていた僕の顔を、至近距離から見つめて語り掛けていた。
 しゃがみ込んで覗き込む少女の胸元には、何故だかすっかり懐いた子猫の姿。大事そうに両手で抱きかかえられている。

「っと、ごめん、寝ちゃってた……今何時――って、三時半…! しまった、寝すぎた」

「うん。私も、もうそろそろ出ようかと」

 腕時計を確認して慌てる僕に、少女が立ち上がりながら言った。
 同じような境遇に同じような時間とは。

「そっか。楽しかったよ、ありがとう――って言っても、後半は眠っちゃってたけど」

「ううん、大丈夫。お陰で、子猫、ずっとモフモフ出来た」

 それは良かった。
 何、少し寂しいなどとは言うまい。
 少女が子猫を名残惜しそうにしながらも放してあげるのを見届けると、僕も立ち上がる。

「それじゃあ、ここで。また会えたらその時は」

「うん。お兄さんも、気を付けてね」

 別れの挨拶もほどほどに、それぞれの目的地へと歩いていく。
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