【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
第4章 入学式と都合の良い話
昔、ヘンリーへッド博士という神経学者の話を聞いたことがある。
彼は、神経を損傷している患者がどのような感覚であるか、また本人たちはどのようなことを不快に感じているのか、どうすれば回復するのか、それを調べたいからと、同僚に頼み込んで自らの腕を切った、いわば自己犠牲による研究を厭わなかった偉人として有名だ。
それは意外にも世間から認められ、実験結果も後の世に教材として語られている程ではあるのだけれど、語るべくはそこではない。
なぜ、自己犠牲をするのかということだ。
それが美徳だと思っているから。あるいはそれをかっこいいと思っているから。その行為の意味を理解出来ない人間は、恐らくそんなことを言い出すだろう。
しかし、それを正に体験しようとしている者には理由が分かる。
それが、特別なことではないと知っているからだ。
桐島藍子という人物も、きっと同じなのだ。
だから、詳しくは知りもしない相手――高宮葵という一人の女の子の為に、自身の記憶を一つ、失うことを是と出来た。
特別なことでないと思っているから、そんなことが出来たのだ。
けれどもそれは……それは、とても――
彼は、神経を損傷している患者がどのような感覚であるか、また本人たちはどのようなことを不快に感じているのか、どうすれば回復するのか、それを調べたいからと、同僚に頼み込んで自らの腕を切った、いわば自己犠牲による研究を厭わなかった偉人として有名だ。
それは意外にも世間から認められ、実験結果も後の世に教材として語られている程ではあるのだけれど、語るべくはそこではない。
なぜ、自己犠牲をするのかということだ。
それが美徳だと思っているから。あるいはそれをかっこいいと思っているから。その行為の意味を理解出来ない人間は、恐らくそんなことを言い出すだろう。
しかし、それを正に体験しようとしている者には理由が分かる。
それが、特別なことではないと知っているからだ。
桐島藍子という人物も、きっと同じなのだ。
だから、詳しくは知りもしない相手――高宮葵という一人の女の子の為に、自身の記憶を一つ、失うことを是と出来た。
特別なことでないと思っているから、そんなことが出来たのだ。
けれどもそれは……それは、とても――