【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
「「いらっしゃい!」」

 二つの黄色い声と破裂音が耳を劈いた。
 同時に鳴り響いたのは、声の主たる二人の女性が手に持つクラッカーだ。
 何が起こっているのかと整理をつけようにも、唐突な轟音により速くなる鼓動の所為で頭が回らない。

 どころか、少しふらふらと。

「まこと?」

「うわっと…! な、何…?」

「倒れそう」

 そう言いながら、背後から両肩に手を添える葵。
 どうやら本当にふらついてしまっていたらしい。
 我ながら情けないったらない。

 促されるまま足を踏み入れた室内は真っ暗。
 そんな中でソファに座らされ、何が始まるのかと思いきや、一気に明々と電気が付けられた。

「いやー、ちょっと予定より早くて慌てたぞ」

 肩を竦めながら歩み寄って来る遥さん。
 設定した時間通りにクラッカーがオートで打ち出される玩具をわざわざ購入していたが、再設定が間に合わずそれをお披露目出来なかったことを嘆いているのだという。

 何だってそんなことを。

「ともあれ、いらっしゃい。っと、どうした葵?」

 遥さんが尋ねた目線の先では、音と空気と雰囲気に圧された葵が不機嫌な表情を浮かべていた。

「私がこういうの苦手だって、兄貴知ってる筈でしょ?」

「待て、説教はこの人たちにだ。俺はクラッカー鳴らしてないだろう?」

 言われてみれば、いいや、溺愛と言って遜色ない対応を見せる妹の為にそれを止め切れていない時点で、共犯である。
 苦笑いする僕と怒り心頭な葵の正面、机を挟んだ反対側のソファに、二人の女性が腰を降ろした。

 片や黒髪ショートぱっつん眼鏡、片や茶髪ロングくるくるといった、何とも相いれ無さそうな二人が、それぞれ異なるテンションで同様の表情をしている。
 それなりに名のある大学だけに、茶髪の方のメイクは五月蠅くなく、抑えられた雰囲気は清楚系と言えなくもない。

 テンションは別として。
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