【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
「岸家長女の乙葉よ」

「次女の琴葉!」

 簡単な自己紹介で、見た目通りのキャラであったことに安心。

「姉妹?」

 ぶっきらぼうに聞いたのは葵だ。
 小首を傾げて向き合っている。
 それに対し次女と名乗った茶髪、琴葉さんが「と言うか」と置いて、

「双子だよ、あたしら」

「そうね。忌々しいことにね」

「ああん、酷いわ!」

 ドストレートすぎやしませんか、と思いこそしたものの敢えて口には出さなかった僕とは対称に、正直な葵はド直球で聞いてしまう。

「仲悪いの?」

 その短い一言には、当の姉妹はおろか、遥さんも微笑んだままだ。
 あの、と声をかける僕に対して、遥さんは「いつも通りだ」とだけ。
 益々のはてなを浮かべて首を傾げる動作を、珍しくシンクロさせる僕と葵。

 そんな二人の前で、

「冗談よ琴葉。貴女が一番よ、彼氏なんていらないわ」

「あぁもう、素直じゃないなあ乙葉は。あたしだって彼氏なんていらないよ!」

「……嘘よ。やっぱり彼氏は欲しいわ」

「一秒でフラれた! 記録更新だよハル!」

「あーはいはいそうっすね、めでたいめでたい。分かったから離れてくれ、妹ちゃん先輩」

 茶番というか寸劇というか、そんなものが繰り広げられる。
 呆気に取られて言葉を失っているこちらの二人にも、そろそろ注意を向けて欲しいものだ。
 本当の喧嘩が始まったわけではなかったのだな。と思ったのは葵も同じらしく、「ふぅ」と小さく息を吐いた。

 葵のそれが聞こえたのか一段落ついたのか、強く抱きしめ合いながらも顔を背けられた妹の方が、ようやくと僕らに向き直った。

「まぁ見た通り変な姉妹だから」

「自分で言うの?」

「キャンパス内では有名よ、面白姉妹って」

「不本意だけどね」

 と姉が小言を放ったことで、再び繰り返される寸劇。
 傍から見ている僕には付いていけないノリと勢いだ。
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